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68年ぶりの全英オープンがアイルランドをひとつにするかもしれない─ ゴルフアナリスト小松直行氏の全英オープンコメント
2019年7月20日(土)午前8:30
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18日に開幕した今季最後のメジャー大会、全英オープンゴルフ選手権。CS放送ゴルフネットワークで同大会生中継のゲスト解説で出演した在米ゴルフアナリストの小松直行氏に、2日目を終えてコメントをいただきました。
その時は、セントアンドリュース・オールドコースの全英オープンで、122個もあるバンカーに1度も入れずに、8打差をつけて勝ったんです。一人だけあらゆる意味で超越していて、これはもうこの人を追いかけるしかないなと。
その後もすごいパフォーマンスを見せ続けて、スキャンダルにはがっかりしましたけど、普通の人だったら趣味のゴルフでも諦めるような、歩けないくらいの腰痛も克服して、マスターズに勝って復活した。それは期待しますよね。でも今回、ちょっと残念でしたね。タイガーが週末に残らないのはがっかりです。
あとは、ローリー・マキロイやGマック(グラム・マクドウェル)などアイルランド勢が厳しい中で、シェーン・ローリーが弾けました(2日目終えて1位タイ)。実は、2週間前のアイリッシュオープンでも期待していたんです。10年前、彼がアマチュアの時にアイリッシュオープンに出ていきなり勝ったときは、アイルランド中の人たちが狂喜したという試合だったんですが、今年はショボショボと終わっちゃった、と思ったらの今週ですよ。
もしこのままトップにいてくれたら、北アイルランドで、アイルランドの選手が、あれだけの喝采を受けながら勝つ。しかも、舞台はメジャーで68年ぶりの全英オープン。これはすべてが揃った惑星直列みたいな出来事で、「アイルランドの紛争がこれで本当に終わる!」といってもいいくらいのことだと思うんですよ。
北アイルランド紛争の和平協定が締結されたのが1998年ですけど、雰囲気としては引きずるものはあったでしょう。マキロイも記者会見でもいっていましたが「これでみんなが一体になる。それがこの全英オープンだ」と。自分が勝てればもちろんいいけど、誰が勝っても、ここで全英オープンが開催されたことが誇らしいと。北アイルランドのマキロイが勝っても、アイルランドのローリーが勝っても、アイルランドが一体になる可能性というのは、ゴルフファンの心の中ではありうるわけですから。
全英オープンは、メジャートーナメントで競技の最高峰。世界の大方のゴルフファンには「世界一決定戦」でいいと思うんですけど、アイルランドやイギリスの人たちにとっての今回の全英オープンは、国が分断されて、カトリックとプロテスタントが戦ったなんていうのはもう昔の話だと。紛争で血が流れて、家族が離れ離れになるという悲劇も、もう終わりだと。「もうそういう時代じゃない」と、そういうきっかけにすらなるんじゃないかと思うんです。
僕らはアイルランド紛争の当事者じゃないですし、実感もないですけど、想像するに、おそらくそういう背景があるんじゃないかと。なので、アイルランドの選手に勝ってほしいと思いますね。
ゴルフというのは、一番少ない打数であがった人が勝つという、クールで冷徹な何の感情も入らない数字の世界の戦いですが、だからこそ、逆にいろいろなことを盛り込んで期待するわけですよね。地元の人に勝ってほしいとか、メジャーの記録がかかっているとか。数字だからこそ、何も色がついていないからこそ色をつけやすいというか、とりわけゴルフはそんなスポーツだと思います。
■小松 直行(こまつ・なおゆき)
1960年神奈川県横浜市生まれ。筑波大学体育専門学群卒、東京大学大学院教育学研究科博士課程中退(修士)。教職、マスコミを経て、スポーツ科学全般を学んだ背景からゴルフに入れ込み90年代からトーナメント中継に関わる。2002年に渡米して現職。ヨーロピアンツアーを中心に年間40試合近くを生中継。フロリダ州オーランド在住、HC12、ベストスコア75(これもゴルフの不思議!)
(写真:Getty Images)
「もうそういう時代じゃない」そのきっかけになる期待をもたせるシェーン・ローリーの躍動
タイガーはショックでしたね。タイガーの強かった頃は、出れば優勝争いだし、予選カットを心配するなんてことはなかった。僕はタイガー・ウッズでこの道に入ったようなもので、2000年にタイガーがキャリアグランドスラムを達成したときに中継に参加させていただいたんですが、それをみて大学の教員をやめちゃって(笑)この道1本になったんですけど。まあそれはいいんですけど、「これは歴史だ」と思ったんですね。それぐらい、タイガーのパフォーマンスにはインパクトがあって。その時は、セントアンドリュース・オールドコースの全英オープンで、122個もあるバンカーに1度も入れずに、8打差をつけて勝ったんです。一人だけあらゆる意味で超越していて、これはもうこの人を追いかけるしかないなと。
その後もすごいパフォーマンスを見せ続けて、スキャンダルにはがっかりしましたけど、普通の人だったら趣味のゴルフでも諦めるような、歩けないくらいの腰痛も克服して、マスターズに勝って復活した。それは期待しますよね。でも今回、ちょっと残念でしたね。タイガーが週末に残らないのはがっかりです。
あとは、ローリー・マキロイやGマック(グラム・マクドウェル)などアイルランド勢が厳しい中で、シェーン・ローリーが弾けました(2日目終えて1位タイ)。実は、2週間前のアイリッシュオープンでも期待していたんです。10年前、彼がアマチュアの時にアイリッシュオープンに出ていきなり勝ったときは、アイルランド中の人たちが狂喜したという試合だったんですが、今年はショボショボと終わっちゃった、と思ったらの今週ですよ。
もしこのままトップにいてくれたら、北アイルランドで、アイルランドの選手が、あれだけの喝采を受けながら勝つ。しかも、舞台はメジャーで68年ぶりの全英オープン。これはすべてが揃った惑星直列みたいな出来事で、「アイルランドの紛争がこれで本当に終わる!」といってもいいくらいのことだと思うんですよ。
北アイルランド紛争の和平協定が締結されたのが1998年ですけど、雰囲気としては引きずるものはあったでしょう。マキロイも記者会見でもいっていましたが「これでみんなが一体になる。それがこの全英オープンだ」と。自分が勝てればもちろんいいけど、誰が勝っても、ここで全英オープンが開催されたことが誇らしいと。北アイルランドのマキロイが勝っても、アイルランドのローリーが勝っても、アイルランドが一体になる可能性というのは、ゴルフファンの心の中ではありうるわけですから。
全英オープンは、メジャートーナメントで競技の最高峰。世界の大方のゴルフファンには「世界一決定戦」でいいと思うんですけど、アイルランドやイギリスの人たちにとっての今回の全英オープンは、国が分断されて、カトリックとプロテスタントが戦ったなんていうのはもう昔の話だと。紛争で血が流れて、家族が離れ離れになるという悲劇も、もう終わりだと。「もうそういう時代じゃない」と、そういうきっかけにすらなるんじゃないかと思うんです。
僕らはアイルランド紛争の当事者じゃないですし、実感もないですけど、想像するに、おそらくそういう背景があるんじゃないかと。なので、アイルランドの選手に勝ってほしいと思いますね。
ゴルフというのは、一番少ない打数であがった人が勝つという、クールで冷徹な何の感情も入らない数字の世界の戦いですが、だからこそ、逆にいろいろなことを盛り込んで期待するわけですよね。地元の人に勝ってほしいとか、メジャーの記録がかかっているとか。数字だからこそ、何も色がついていないからこそ色をつけやすいというか、とりわけゴルフはそんなスポーツだと思います。
■小松 直行(こまつ・なおゆき)
1960年神奈川県横浜市生まれ。筑波大学体育専門学群卒、東京大学大学院教育学研究科博士課程中退(修士)。教職、マスコミを経て、スポーツ科学全般を学んだ背景からゴルフに入れ込み90年代からトーナメント中継に関わる。2002年に渡米して現職。ヨーロピアンツアーを中心に年間40試合近くを生中継。フロリダ州オーランド在住、HC12、ベストスコア75(これもゴルフの不思議!)
(写真:Getty Images)
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