渋野日向子の強さを示す言葉「バウンスバック」って?
2019年8月9日(金)午前10:45
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AIG全英女子オープンゴルフ選手権で優勝し、一躍時の人となった渋野日向子選手。42年ぶりの快挙に加え、笑顔があふれる朗らかで明るいキャラクターが好感をよび、優勝以来ネットニュースでもテレビでも、渋野選手を見ない日はありません。
普段ゴルフを観ない人たちが渋野選手に注目している状況は、ゴルフメディアにとって本当に嬉しい限り。ひょっとしたら、この記事もそういう方が見てくれているかも・・・と、お菓子のことや彼女の天真爛漫なキャラが話題になるのもよいのですが、東京五輪も控えていますので、ゴルフを観る時に知っておくとより楽しくなるひとつの用語を、渋野選手を通して解説したいと思います。その言葉は「バウンスバック(bounce back)」です。
「バウンスバック」とは、直訳すると「跳ね返る」「立ち直る」という意味。転じて、ゴルフ用語ではボギーまたはボギーより悪いスコアを出した次のホールでバーディ以上のスコアを出すことをバウンスバックといいます。
ツアーによっては公式成績として採用し「バウンスバック率」としてランキング化しています。国内女子ツアーで8月4日現在のバウンスバック率1位は、実は“スマイルシンデレラ”渋野日向子選手で26.0563%。2位の河本結選手が23.6686%なので、約2.4ポイントほど上回っています。ちなみに、2000年米国PGAツアーでのバウンスバック率1位はタイガー・ウッズで、36.51%と飛び抜けた数字をマークしています。
このバウンスバック率1位の要因について、渋野選手は6日に行われた帰国記者会見で「なぜだかわからない」としつつ「ボギーの後のバーディーを取る確率は上がっているので、パットの技術も、気持ち的にも成長しているのかも」と意識はあるようです。
今回のAIG全英女子オープンでもその要素はよくみてとれます。渋野選手が72ホールで打ったボギー数は5個、ダブルボギーが1個。そのうち2回バウンスバックを記録しています。さらに特筆すべきは、連続ボギーがないうえに、後半9ホールでは4日間でボギーなしの18バーディを奪取。後半戦でスコアを大きく伸ばしています。
「10番でバーディを獲ると、後半で30(6アンダー)と31(5アンダー)が出てるんですけど、後半でバーディを獲ると気分が変えられる。ボギーを打つのはメンタルもやられてしまいますが、逆にすごく燃える部分もあります」と、渋野選手にはマイナスを跳ね返す力、切り替える力があるのがわかります。
トレードマークの笑顔についても、本人からは「結構感情の起伏がある」といいます。バウンスバックの質問の時も「ボギーを打つと怒っているので、その怒りを(次のホールの)ドライバーにぶつける!」と話していたことが印象的でした。
ゴルフを職業にしているプロゴルファーにとって、ボギーというスコアを落としてしまう結果は何より辛く恐ろしいことであり、どうやっても避けようのないことでもあります。しかし、それをエネルギーに変えて「跳ね返す」「立ち直る」のがバウンスバック。ボギー後のバーディは、プレーヤーの不安や葛藤、そして勇気と喜びが溢れたものだと思うと、同じバーディでも見え方が変わってくると思います。そんなプレーをたくさん見せてくれた渋野選手だからこそ、日本中が心を引き付けられたのは、必然だったのかもしれません。
ちなみに、今季の米国PGAツアー同ランク1位(8月4日現在)は、29.31%で今季未勝利、というかツアー未勝利のバド・コーリー(米国)。ツアーのポイントランキングレースも92位で、バウンスバック率No.1が強者の称号かというと、必ずしもそうとはいいきれないのですが(失礼!)、彼は昨年交通事故で約4ヶ月の離脱を余儀なくされたのち、ツアーに復帰して来季のシード権を獲得しました。ある意味、人生をバウンスバックさせた、とも言えるのでは!?
(写真:Getty Images)