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J.デイのメジャー制覇、そのカギは「脳トレ」にあった!?　右脳優位のメンタルトレーニング法とは

2016年3月26日（土）午前11:33

　2月19日から3日間にわたって東京ビッグサイトで催された第50回ジャパンゴルフフェア 2016で、ゴルフダイジェスト社主催のメンタルトレーニングセミナーが開催。ラグビー日本代表のメンタルコーチ荒木香織氏と、ジェイソン・デイ選手のパフォーマンスコーチであるヘンリー・ボールトン氏の講演に、ゴルフ業界関係者、プロゴルファー、プロキャディなど約100名が参加しました。

脳とココロのトレーニングデバイス「フォーカスバンド」

　第2部で講演を行ったボールトン氏は、デイ選手をはじめとした世界のトッププロゴルファーを優勝に導いてきたUSPGAパフォーマンスコーチ。電子工学を学んでゴルフの世界に入り、2008年ごろから豪州、日本ツアーを回る選手たちと仕事を始めた同氏は、練習でのパフォーマンスを実戦で発揮出来ない選手たちを見るうちに「メンタル強化」の重要性に気付き、その助けとなるシステムを自ら開発しました。それが、今回取り上げる「FocusBand（フォーカスバンド）」です。

　フォーカスバンドは、脳とココロをトレーニングするためのヘッドデバイスとアプリケーション。具体的にはウェアラブルの脳波測定デバイスとスマートフォンアプリケーションがセットになったものです。3つのセンサーで聴覚、視覚、振動の脳波を測定し、それをデバイスに送ることでアプリに脳の状態がグラフィックで表示されます。リアルタイムで脳波を解析することにより、高度な集中状態を作り出すためのトレーニングが可能になるのです。

「MUSHIN（無心）」と「QUIET EYE（静かな目）」

　フォーカスバンドでは、本当のフォーカス（集中）を得るための理想的な脳の状態は「MUSHIN（無心）」。その中で静かに対象物を見ていられる状態を「QUIET EYE（静かな目）」としています。アプリ上には左脳が“赤"で、右脳は“青"で表示されます。

右脳左脳とも活動している状態

右脳優位（「MUSHIN」）の状態

　左脳、右脳はどちらも「大脳新皮質」の構成要素であり、そこから出された指示が「大脳辺縁系」、そして「小脳」へと伝わり、筋肉を動かすというのが基本的な脳の仕組みとのこと。ボールトン氏によると、思考、習慣を司る左脳は、1秒間に40個の異なる情報を発信し、練習などで具体的な技術を学んでいく際に有効。一方の右脳は、1秒間に1100万もの情報処理、指令が可能で、沢山のものを俯瞰的に見られるため、実戦で使うべき部分だと言います。

　集中のために理想的な状態である「無心」は“右脳"優位で自分自身の意識をコントロールし、より早くたくさんのことを学べる状態。「静かな目」は見ている対象物から目線が3度以上ずれない落ち着いた状態です。講演で例に挙げられたサンドラ・ガルなどは、常に「無心」で、ターゲットとボールを見るときは「静かな目」になっており、外見では分かりませんが、脳のバランスとしては最適なパフォーマンスが出来る状態になっています。

「MUSHIN」の状態で静かに対象物を見ることができている「QUIET EYE（静かな目）」の状態

ジェイソン・デイのケーススタディ

　フォーカスバンドを取り入れた選手の中でも大きな成功をつかんでいるのがデイ選手です。同選手はまず大きな目標に「世界チャンピオン」を設定し、その次にさらに具体的な1トーナメントにつき3打差縮めるという目標を設定。そのための取り組みで最も実現可能性の高かったのが「1.5mのパットの成功率を上げる」ことでした。

　トレーニングを開始した2013年のスタッツでは、デイ選手は約1.5mのパッティングを31回失敗していました。これを知った同選手は「自分はパットが上手い」という考えが誤りだったことに気付きます。それまでの同選手はそんな“思い込み"のせいで練習に注力出来ておらず、ミスしたときに感情的になりやすい状態でした。

　その事実を意識し、思い込みを修正した同選手は、フォーカスバンドでのトレーニングを重ねたことで、2014年にはミスが5回に激減。これを足掛かりに、2015年全米プロゴルフ選手権で悲願のメジャー初制覇を遂げたのです。

メンタルトレーニングの新たな潮流に？

　デイ選手の場合は、自分がパットの名手だという思い込みが、物事を判断する際に感情に左右されてしまう原因になっていました。こういった思い込みが強いと、失敗した場合に自分に対する失望、消失感が大きくなり“技術的な思考＝左脳による思考"が強くなってしまいます。それがネガティブなサイクルが続く要因となっていたのです。

　これを解決するため、デイ選手は自分を意識し、ターゲット、ボールを「静かな目」で見ることによって、再び自信を取り戻すことに成功しました。「脳波」という目には見えないものを視覚化・数値化し客観的にとらえることで結果につながったこの事例は、今後のメンタルトレーニングの新たな潮流になるのではと大きな注目を集めています。

ボールトン氏にインタビュー

……トレーニングがデイ選手に与えた影響は？
彼自身が自分を信じ始めた、それに寄与したことが大きなポイントでしょう。2013年から取り組み始め、その時には結果が伴わず「そんなはずはない」という思いがありましたが、2014年には「もしかしたら本当に勝てるかもしれない。目標に到達出来るかもしれない」と信じ始めていました。

……本国での評価は？
ツアーで認識され、認めてもらいたいという思いのもとでこれだけの時間とシステムを構築してやってきたので、認めてもらえていると思っていますし、取り組む選手も増えています。

……米ツアーに挑戦している松山、岩田らが取り入れる可能性は？
具体的に誰とどう取り組むという話はないが、彼らにもぜひ取り入れてもらいたいですし、そのチャンスがあれば共同作業したいと思っています。

……日本人選手へのアピールを
米ツアーに参戦している3人以外の日本人選手とも取り組んでいきたいと思っていますので、ぜひ興味を持っていただきプロセスを一緒に作れたらと思います。

※このセミナーの模様は、4月放送「ゴルファーズ倶楽部」でも放送する予定です。

【詳細】フォーカスバンド