小松直行の週刊オフチューブ
2014年1月16日(木)午後6:50
LIVE FROMのMCや欧州ツアー中継の実況を担当している小松直行アナウンサーが、ゴルフ最新ニュースをピックアップ。小松さんならでは視点からゴルフ界の最新動向をお届けします!
目次:
*アブダビHSBCゴルフチャンピオンシップ
*歴代勝者、P・ケイシーとM・カイマー
*小松の小耳
?中東湾岸3連戦:まず、アブダビ!?
今週から中東ペルシャ湾岸で3連戦。アブダビ、カタール、ドバイです。まずはアラブ首長国連邦の7つの構成国の一つアブダビから参りましょう。
連邦の首都でもあるアブダビはマンハッタンのような摩天楼。それも特徴ある高層ビルが多く、舞台のアブダビGCをほかのどことも違うコースに見せてくれます。市街中心から15分。国際空港から10分のアブダビGCはピーター・ハラダイン設計で2000年10月公式開場。7,583ヤードという長さと速いグリーン、海水をたたえた7つの池が特徴的。もちろん、つばさを広げたハヤブサをかたどったクラブハウスの威容、そして見事な優勝トロフィーが印象的。今週の天気予報は “ハブーブ"。「強い風」という意味のアラビア語だそうですが、木曜日はたいへんそう。
新春の世界のゴルフは中東でのビッグイベントで盛り上がります。今週のアブダビは2006年にアブダビ政府観光局(ADTA)が創設。 HSBCとアブダビ政府観光局による2015年までの冠スポンサーが決まっています。賞金総額は270万ドル(約2億8000万円)。2013年は延べ61,240人の観客がコースで観戦。去年はタイガー・ウッズとローリー・マキロイが華々しく一年をはじめるということで盛り上がりました。今年も126人のフィールドにはワールドランキングのトップテンから4人。3位のヘンリク・ステンソン、5位のフィル・ミケルソン、7位のローリー・マキロイ、10位のセルヒオ・ガルシア。元ナンバーワンのルーク・ドナルド、マーティン・カイマーはもちろん、トーマス・ビヨーン、ミゲル・アンヘル・ヒメネスはじめベテラン勢も来ています。“ナスル(勝利)"を勝ち取るのは誰か!?
【アブダビHSBCゴルフチャンピオンシップ 放送日時】
1日目:1月16日(木)午後7:00?10:00
2日目:1月17日(金)午後7:00?10:00
3日目:1月18日(土)午後7:00?10:00
最終日:1月19日(日)午後7:00?10:00(最大延長午後10:30)
*ちなみに、地球上で最も速く移動できる生物はハヤブサなんだそうですね。獲物を狩るときに上空から急降下するときの最高速度は時速200km、時には時速300kmに達することもあるそうです。そのスピードで飛んでいる小型の鳥を蹴落として、それを空中でキャッチするというのがハヤブサの狩りのスタイル。すさまじいですな。
?歴代優勝者の強さ?
過去8年間のアブダビではマーティン・カイマーが連覇も含む3勝(2008,10-11)、ポール・ケイシーが2勝(2007,09)を遂げています。ふたりの勝ち方が好対照に思えるので、少し振り返らせてください。
*2009年のポール・ケイシー:“インテンシティー"
ケイシーは2007年のアブダビがキャリア8勝目で、2年後の2009年に9勝目を同じ試合でものにしました。36歳、プロ転向14年目、3度のライダーカップも含めてすでに経験は十分ですが、童顔に気さくな笑顔のためか若手のように見られがちですが、2013年はアイリッシュオープンで2年ぶりに勝ち、キャリア12勝。イングランドの現役プレイヤーとしては、リー・ウエストウッドに次ぐ勝利数です。
最終日に崩れて逆転負けを喫した経験が何度もあるケイシー。2009年のアブダビでは4打差をつけて最終日に入り、折り返して10番が終わったときには6打差に広げていたが、続く4ホールで3つのボギー、16番ティーに立ったときには1打差になってしまいました。
こういう展開だったのに、ケイシーは終始、リーダーボードを見なかったといいます。トレバー・イメルマンがマスターズに勝ったときにそうしていたという話を、試合に先立つプロアマ戦のパーティーのときに聞いて納得し、実行したという話。
リーダーボードで他のプレイヤーの動静を知ったばかりに、それに応じてプレイの仕方を変えたり、あるいは安心したり心配したりして集中力を欠く、ということもあるでしょう。それを封じる作戦、ということでしょうか。アーリー・ラウンドでは、いわば自由にプレイしてきて、いざ優勝争いとなった時にそこまでと同じように実力を発揮するというのは、よほど難しいことなのでしょうね。目の前の一試合、1ラウンド、1ショットにベストを尽くすというのはよく言われることですが、心理的な態度がなかなか結果につながらないのがゴルフ。その意味で、そうやって勝ったケイシーの実力は疑いもないなと、私はその試合を見ていて思いました。
ただ、優勝後の記者会見でタイガー・ウッズに言及する質問が出たとき、答えの中でケイシーはインテンシティ(intensity)という言葉を使いました。タイガーはどんな試合でも全力で勝ちにくる、勝負を左右する重要なショットやパットを成功させる集中力は凄まじい、というような意味あいで、ちょっとかなわない、と認めていました。「オレはウッズに張り合える」と公言するのは、自信過剰としか受け取られないでしょうから、それはいいとして、リーダーボードを見ない勝ち方にインテンシティーがあるのかどうか。
ゴルフは自分との戦い、という言い方もされます。それは、成功の確率の低いショットや、無謀な一打に挑む気持ちを抑えるということでもあるのでしょう。しかし、勝ちたいから出ている試合で、心の動きがショットに影響しないように、他者のスコアで攻め方を変えないように、という目的でリーダーボードを見ない、というのはどうでしょう。自己欺瞞とまでは言わないが、どこか頼りない気もします。
2008年のマスターズに勝ったT・イメルマンが手本だといいますが、1994年のターンベリーで追いかけてくるプレイヤーとの差を把握しなかったためにクラレット・ジャグを逃したイエスパー・パーネビックの例もあります。リーダーボードを見ずに、事前に設計した作戦通りのプレイができた末に負けてしまったら、悔しくはないと言い切れるのか。まだ実力が伴っていないと納得するだけなのか。負けが悔しくないというのはあり得るのか。
4日間のストロークプレイのゴルフで、フィールドの百数十人が、最初から最後まで自分だけのゴルフをするのを理想としていたりしたら、プロゴルフはインターネット上で遊ぶゲームのように、共有するものが希薄になりはしないか、と余計なことまで考えてしまいます。逃避的とは言わないまでも、なんだか現実を仮想現実と見立ててやり過ごそうという弱さを感じるといったら言いすぎでしょうか。
もっとも,ケイシー自身はライダーカップでの自らのインテンシティーを評価しているようでした。ケイシーは2006年に世界マッチプレイ選手権を勝ち取りました。マッチプレイ的な態度で戦っても、勝てるはずだと、ファンとしては期待してしまうのですが、そろそろベテランと呼ばれるかもしれない今年のケイシーは、どんな勝ち方を見せてくれるのか、いずれにしても楽しみです。
*2010年のマーティン・カイマー:“アグレッシブ"
いつもながら、落ち着き払ったプレイぶりが印象的でした。一緒に最終組を回ったイアン・ポールターとローリー・マキロイがともに個性的でにぎやかなプレイヤーだから、一層、クールな印象をもたらしたのでしょう。この年はポールターとカイマーがノーボギーで20アンダー、マクロイが19アンダーで、パー5の最終ホールに来て、マキロイがまずティーショットを右ラフに落としてしまい、次に打ったカイマーは力みのないスウィングでフェアウエイに置きました。ポールターはフェアウエイを左に外しました。
ふたりはフェアウエイに刻むしかありませんでしたが、カイマーは3ウッドで277ヤードを乗せ、20mのイーグルパットを1m弱に寄せました。3打めを6mにつけたポールターは、入れればプレイオフにもち込めるそのパットをショート。その時点で勝敗が見えました。
「ティーショットではフェアウエイに置くことが第一目標でした。2打めでグリーンを狙えますから。
「短いパットは今週、外していなかったので、アドレスしたときに安心感がありました。実際、簡単なパットで、右内側狙いで、真ん中から入りました」
レイアップを考えなかったのか、という質問にカイマーは次のように答えていました。
「まったく。もともと私はアグレッシブなプレイヤーですし、最終ホールはバーディーが必要でしたから。相手はイアン・ポールターですよ。彼が刻んだから、もし私がバーディーにできれば、少なくともプレイオフには残れます。だからレイアップするなんてまったく考えませんでした。」
ふたりに1打差の単独首位で出て行ったカイマーは出だしからバーディーを重ねました。しかし、ポールターが3連続でとって3番ホールで追いつかれます。8番のバーディーでリードを取り戻しますが、11番、12番をものにしたポールターがついに一歩、前に出ます。カイマーは14番で長いバーディーパットを決めて並び返しましたが、前半振るわなかったマキロイが後半4つめのバーディーを17番でものにして1打差に迫ってきました。そのホールは482ヤードのパー4で、カイマーは2打めをひっかけてラフに入れながらも5mのパーパットを沈めます。
「おそらくあれはきょう、最も重要なパットでしたね.17番は2打めがひどくて、かなり引っ掛けてしまった.35mは左に行ってしまって、グリーンの脇のラフの中の、難しいライになってしまったんです。それで5mが残った。打ちたいところにきっちり打てたパットでした。ほんとに凄く大事なパットだったわけですよ。」
2009年8月のゴーカート遊びでの事故で右足を骨折し、この時点ではまだチタン製プレートが足に入っている状態でしたが、取り出す手術には2、3週間を要するので、このままで秋まで行く、と言ったカイマー。この試合に勝って幕を開けた2010年は、まさにカイマーの強さを示す「破竹のイキオイ」。8月の全米プロに勝ち、次に出たオランダでのKLMオープンでも圧倒的優勝、そのままウエールズでのライダーカップに臨んで欧サイドの勝利に貢献。そのままスコットランドでダンヒルリンクス選手権に3打差で勝ちました。単なる公式戦3連勝と言うにはスゴ過ぎます。(小松直行)
?小松の小耳?
五輪ゴルフ英国代表ティームリーダーにジェイミー・スペンス:2016年にブラジル、リオデジャネイロで開催されるオリンピック夏季大会で102年ぶりに復活する“五輪ゴルフ"へ向けて、英国ゴルフ協会は(BGA)はジェイミー・スペンス(50歳)をチームリーダーに選んだ。
スペンスは欧ツアーでの20年のキャリアで2勝。「ゴルフがオリンピックに復帰するのはきわめて重要なこと。英国のプレイヤーが歴史を作ることができるのだから。オリンピックの金メダルは生涯の誇りになる。私の役割は、リオへ行って代表ティームが金メダルを取る手助けをすることだ」とスペンス。
過去2回のライダーカップでのアシスタントキャプテンの経験も含め、プレイヤーが実力を発揮できる環境づくりを目指す。
欧ツアー・トーナメントコミッティーのチェアマンという要職も担い、2005年からはテレビの解説者も務めてきており、女子プレイヤーもよく知っているが、「ただ、若い世代のことはこれからだ。みんなに会ったり、彼女たちの試合を見に行くのが楽しみ」と言う。
BGA会長でスコットランドゴルフ同盟の理事長でもあるハーミッシュ・グレイ氏は、「経験豊かで、熱意も十分。リーダーシップとコミュニケーションは強みだし、計画的に物事を進めるのに長けている。2016年のリオへ向けた取り組みを率いてもらうのに完璧な人物だ」。
[画像は全て©Getty Images]