小松直行の週刊オフチューブ
2014年2月13日(木)午前10:52
LIVE FROMのMCや欧州ツアー中継の実況を担当している小松直行アナウンサーが、ゴルフ最新ニュースをピックアップ。小松さんならでは視点からゴルフ界の最新動向をお届けします!
目次:
*ツワネの中にプレトリアがある:ツワネオープン
*なっ、長い
*奇跡の寄せワン連発、ビクター・デュビソン
*3回戦、ガルシアとファウラーの“グッド、グッド”をどう思いますか?
*小松の小耳
?単にゴルフだけのことではない試合:ツワネオープン?
南アフリカ共和国の行政府所在地プレトリアはハウテン州北部のツワネ市都市圏にある地区の名称。2000年までは、単独の都市としての権限を有していました。マルティネス・ウェセル・プレトリアス南ア初代大統領が、イギリスによる植民地支配に抵抗したアフリカーナー(ポール族、オランダ系移民)のリーダーだった父と叔父にちなんでプレトリア・フィラデルフィアと名づけたことに由来するそうです。域内には約7万本ものジャカランダの街路樹があって「ジャカランダの街」とも言われています。
日本では特定秘密保護法の成立までに引き合いに出された通称ツワネ原則(国家安全保障と情報への権利に関する国際原則)で知られることにもなった「ツワネ」は、先住民ンデベレ族の首長の名前。2005年3月、プレトリアの市議会によって市名を「ツワネ(Tshwane)」に改める事が決議され、ツワネはプレトリアを含む都市圏の名称として使用され、プレトリアはツワネ都市圏の地域名のひとつとして存続することとなりました。ただ、2012年末までの変更予定にアフリカーナーは猛反対。2012年12月の住民投票で反対票が過半数を上回る予期せぬ結果となり、与党ANCの政治的思惑もあって、変更は棚上げとなった模様です。
こういう経緯はありながら、2013年に第一回の開催されたツワネオープンは、当初の目的通り地域経済の活性化と都市名変更の国際的アピールという役割を果たしたようです。結果としてツワネ都市圏には1億410万ランド(約10億円)、南ア全体で見ると1億9130万ランド(約18億円)の経済効果があり、256の一時雇用と432の恒久的雇用が生み出されました。PRの効果としても3900万ランド相当と見積もられ、十分見返りのある投資であったとされています(Grant Thorton社調べ)。今年も欧ツアーとの共催で世界のテレビ38社1092局を通じて2億100万世帯に届きます。 “It’s more than just golf.(ゴルフだけではないのです)”がスローガンとなっているこの試合、今年が2年目。賞金総額は日本円で2億1100万円、優勝3345万円という試合です。
?なっ、長い!?
舞台はカッパーリーフG&Cエステート(ザ・エルス・クラブ・カッパーリーフ)。標高が1500m近いので飛距離はおよそ10%増しになりますが全長7964ヤード、パー72。パー5は685ヤード(4番),607(8番),658(11番),632(15番)。500ヤードを超えるパー4も3つあります。設計はアーニー・エルス、2006年開場。エルスの祖父、アーニー・ヴァーマーク氏がかつて住んだことのある土地だという話。今週、孫のエルスは来ていませんが、いまではドバイについで世界で2つめの「エルスクラブ」となっています。
【ツワネオープン放送日時
1日目:2014年02月27日(木) 午後10:30?深夜0:30
2日目:2014年02月28日(金) 午後10:30?深夜0:30
3日目:2014年03月01日(土) 午後11:00?深夜1:00
最終日:2014年03月02日(日) 午後11:30?深夜1:30(最大延長深夜2:00まで)
*去年は前週にアフリカオープンを勝った地元ダレン・フィカートが三日目に64で浮上し、チリのマルク・トゥロ、南アのチャール・コツィエ、そして巨漢ダーウィー・バンダーウォルトの4人が16アンダー首位タイで最終日突入。ダーウィー・バンダーウォルトは67で21アンダーにし、フィカートはバック9すべてパーの69に終わって決着しました。今季南アでの8試合目、欧ツアーとサンシャインツアーの共催6試合目。8試合のうち5試合で南ア勢が勝っています。
?“2連続奇跡的寄せワン”のV・デュビソン?
先週のWGCアクセンチュアマッチプレイ選手権は決勝のエクストラホールでの、フランスのビクター・デュビソンの粘りに驚かされましたね。17番バーディー、18番でバンカーセーブしてオールスクエアに戻してプレイオフに入ったあと、19ホール目、20ホール目とアプローチを砂漠に入れて絶体絶命の場面で、デュビソンは信じ難い寄せワンを2ホール連続で演じました。しかも、それほど思案するふうでもないままに無造作に打ったようにも見え、TVカメラマンも構えていなかったようなタイミングだったのには驚きの一言。対戦相手ジェイソン・デイも苦笑いの後、「やるなぁ。ガッツがあるし」と漏らしていたとのこと。
感嘆の声を少し・・・米CBSテレビの解説者ニック・ファルドは「解説者冥利に尽きる。ばかばかしいレベルぎりぎりのショットだ」と感激し、セベ・バレステロスの名を出しました。オンコース・リポーターのデヴィッド・フェアティーは「最初のを見たとき、一生に一度しか見られないすごいショットだと思ったら、10分後にもう一度やってくれた。コースでそれを目撃できたことを、ただ幸せに思う」。ローリー・マキロイも「あんなショートゲームマジックを見たのは偉大なるセベ以来じゃないだろうか」とツイート。トム・ワトソン、グレッグ・ノーマン、グラム・マクドウェル、ルーク・ドナルドをはじめ、賞賛のつぶやきは多数。亡きセベの息子ハビエル・バレステロスは、「勝ったのが誰でも、ビクター・デュビソンが僕のニューヒーロー」とフォローしていました。御歳78歳のゲイリー・プレイヤーは、「プロになって60年になるが、あんなのは思い出せないよ」。
?あれもゲームズマンシップというべきなのか!?
ところで、マッチプレイには独特のルールがありますが、その一つが「コンセッション」。相手のボールが止まっている場合、次のストロークでホールアウトするものとみなして、実際にストロークするのを免除することができます。「コンシードする・コンシードされた」ということになるわけですが、コンシードされたサイドは、それを辞退することはできません。もちろん、コンシードした方が取り下げることはできません。
先週金曜日の3回戦、セルヒオ・ガルシアとリッキー・ファウラーのマッチには興味深い局面がありましたね。ガルシアの2アップで7番グリーンに上がってきたふたりは、ともにパーパットを前にしていました。ファウラーが5m半、ガルシアは2m。ファウラーが不利という場面で、ガルシアが突如、「ハーフにしたくない?」とファウラーに言いました。何のことやらわからないでいるファウラーが「え、なんて言ったの?」と応えると、「ハーフにしたいだろ。ハーフにしよう」と言ったのです。
つまり、ファウラーのパーパットをコンシードするから、ここは分け(ハーフ)にしようぜという意味でした。決めなければ3ダウンになってしまうファウラーとしては願ってもない申し出なわけで、ファウラーはガルシアのパーパットもコンシードして次のホールへ向かい、その8番はガルシアに取られて3ダウンになりましたが、9番からの10ホールで5つのバーディーをとって盛り返し、18番で1.2mのバーディーを決めてマッチをものにしました。ガルシアは逆転負けを喰らった格好になりましたが、あの7番の5m半のパーパットのコンセッションは何だったのか。
前のホールのグリーンでガルシアが競技委員を呼んで救済措置を求めたことで時間がかかり、バーディーパットを前にしたファウラーがかなり待たされ、結局、そのホールは両者パーで分けたのですが、そのことをガルシアが申し訳ないと思ったというのが動機だったようです。ガルシアが救済措置を求めたのは、球の近くに蜂が群がっていたため(ガルシアによると少なくとも20匹、ファウラーによれば50匹以上)でした。子どものころのひどい経験からガルシアは蜂嫌いで、2度のドロップとなって時間がかかりました。
「父親からゴルフはそういうゲームだと教えられて育った。6番でのドロップは時間がかかりすぎたので後味が悪かった。自分がファウラーの立場だったら面白くないと思ったでしょう。だから7番ホールでその罪悪感を払拭して気分よくなろうとしたのです」
まったく後悔なんてしていない。負けたけれども、少なくとも気分よくコースを後にすることができる、と言ったガルシアは、「ゴルフは最近、あるべき姿を外れている」とも言っていました。
皆さんは、ガルシアとファウラーのコンセッションをどう思いますか?
?ガルシアは正しいことをした。罪悪感を抱えたままでは実力を発揮できないし、この件はスポーツマンシップと呼べる行為で、相手にも好影響をもたらした。
?相手を待たせた後味の悪さを、気前のいいコンセッションで払拭しようというのは正しい行為ではない。
?マッチプレイにコンセッションというルールがある由縁は、こういうケースの起こりうることも含めてのこと。あくまでも当事者の判断が尊重されるべきであり、批判に当たらない。こういうことで、ゲームは面白みを増す。
?ガルシアは相互コンセッションを持ちかけるべきではないし、ファウラーはそれを拒否すべきだった。勝負に情けは無用。ルールの中で、あらゆる勝機をつかもうと最大限の努力をしてこそ競技には価値がある。
?ファウラーは賢い。状況は不利だったから、相互コンセッションを受け入れたのは正しい。事実、後のインタビューで、「僕としては、プレイを続けたい気持ちがあったけど、あの状況ではハーフを受け入れなきゃ馬鹿だぜ」と言っていた。
?ガルシアは去年、タイガー・ウッズへの人種差別的発言など、自分の不注意からつらい思いをした。先にカタールで勝ったとき、「今年は周囲の人たちを幸せにしたい」と言っていたし、その気持ちの表れではないのか。プロだから、それぞれの判断があってこそ、ファンも楽しめる。
?ガルシアは2007年のドラールで、ホールアウトした後のカップの中につばを吐いて男を下げたことがある。さらに以前は、プレイ中に切れてスポンサーの看板を蹴り上げたり、靴を投げたりしたこともある。そういう時代を経て、34歳になったガルシアは改めて父の教えを思い、成熟したゴルファーになろうとしているのではないか。
?小松の小耳?
WGCマッチプレイ選手権の行く方:J・デイとデュビソンのファイナルは盛り上がったものの、大会の今後のついては冷めた観測がある。来年のスポンサーと開催地、時期についてはまだ未定。世界ランキングだけをもとに出場者が決まる試合だというのに、今年はトップの3人が出場しなかった。マッチプレイのつねとして人気ある上位選手が早い段階で負けてしまうケースも頻発する。現行の競技形式と出場資格は大きな問題ではないとティム・フィンチェム・コミッショナーは言うが、それらも含めて、PGAツアーとしては4月までにあらゆる方法を検討する予定。
アルゼンチンのタノ・ゴヤ、大舞台出場を決める:アリゾナでのWGCマッチプレイに大方のゴルフファンが沸く中、南アフリカではサンシャインツアーの公式戦ディメンジョンデータ・プロアマが開催されていた。勝てばWGCブリジストン招待に出場できる指定試合とあって、南アフリカの有力プレイヤーに加えて欧州勢も挑戦していたが、アルゼンチンの25歳、イスタニスラオ・“タノ”・ゴヤが逆転優勝し、8月の米オハイオ州アクロン行きを決めた。もっとも、本人が優勝のチャンスのある事を知ったのはその日初めてリーダーボードを見た最終ホールのことで、勝つためにはいいショットを打ってバーディーをとらなくてはと思ったと言う。「勝てるチャンスがあることを知ってうれしかった」というゴヤは、132ヤードを3m弱につけてバーディーを決め、「それを成し遂げられてハッピー。ダブルハッピーです」と言った。ゴヤは2009年のマデイラ島オープンで初優勝を遂げているが、現時点では欧ツアーの年間出場権を持っていない。しかし、今週のツワネオープン出場権も得て、今季の見通しはにわかに明るくなった。
故セベの遺産と欧ツアー強化のジレンマ:初開催のユーラシアカップ(3月末、マレーシア)は欧ツアーと亜ツアーからの10名がライダーカップ形式で競い合う対抗戦。しかし、同様な欧州対アジアの対抗戦ロイヤルトロフィー(日本、中国ゴルフ協会、ワンアジアツアー後援、12月開催)を2006年に立ち上げた故セベ・バレステロスは、病魔と闘っていた2010年、亜ツアーチェアマンのチ・ラ・ハンに書簡を送り、同様な対抗戦を別個に作る計画があることを「道義にもとり、公正とは言えない」とけん制していたことが明らかになった。欧ツアーはロイヤルトロフィーの初回と第2回をツアー公認イベントとしてバックアップしていたが、「開催のポリシーに関してプロモーターと基本的な相違があった」という理由で降りた。セベと近しかったホセ・マリア・オラサバルはロイヤルトロフィーへの一本化を望んでいる。一方で、同じくセベの友人だったミゲル・アンヘル・ヒメネスがユーラシアカップの欧側キャプテンを買って出たことで明らかなように、多くの欧ツアーのプレイヤーには、アメリカに圧倒されて欧ツアーが衰弱していかないように亜ツアーとの関係を強化して基盤を固める必要があるという認識があるようだ。故セベとともにプロモーターとなってきた兄のイワン・バレステロスは、大陸欧州対英国アイルランド連合という図式での対抗戦セベトロフィーの運営を巡っても欧ツアーと対立的で、潤滑に開催されてきたとはいいがたい。
<資料:http://www.telegraph.co.uk/
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