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ジョーダン・スピースを優勝へ導いた「あのボギー」を振り返る/舩越園子の現地レポート

2017年7月24日(月)午前7:49

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 全英オープン最終日、単独首位のジョーダン・スピースがそのまま逃げ切って快勝するのか、それともスピースに追いつき追い抜いた誰かが逆転優勝を遂げるのか。逆転するとすれば、果たして何打差までが逆転可能だろうか。人々の興味は、そこに集まっていた。

 スピースと最終組で回るマット・クーチャーは、わずか3打差ゆえ、言うまでもなく大きなチャンスがあった。

 全米オープンを制したばかりのブルックス・ケプカは6打差。前日に「62」をマークしたばかりのブランデン・グレースと世界ナンバー2の松山英樹は7打差。世界ナンバー1のダスティン・ジョンソン、前年覇者のヘンリック・ステンソンは8打差、メジャー4勝のローリー・マキロイは9打差。

 ランキングや実績から考えれば、彼らにもスピースを捉え、逆転しうる大きな可能性があった。

 だが、その大半が出だしから躓いたり崩れたりで振るわずじまいになった。日本の大きな期待を担っていた松山もトリプルボギー発進。優勝争いの蚊帳の外へ押し出され、14位に後退して4日間を終えた。

 その一方で、スコアをぐんぐん伸ばしていったのはスタート前にはノーマークだったハオトン・リー、マーク・リーシュマンといった選手たち。

 その現象は、ゴルフがいかにメンタルなゲームであるか、メジャーの最終日に優勝を強く意識して戦うことがいかに難しいかを如実に物語っていたように思う。

 優勝争いは早々にスピースとクーチャーのマッチプレーの様相を呈し、勝利の女神がどちらに微笑みかけていたかと言えば、出だしの4ホールで3つもスコアを落としたスピースのほうが劣勢で、笑顔をたたえながらスピースを捉えたクーチャーに分があるように感じられた。

 後半に入ると、オナーはずっとクーチャーだった。そして、スピースが3打目に20分以上を費やし、挙句にボギーを喫した13番を終えたとき、ついにクーチャーは単独首位に立った。

 リーダーボードの上では、このとき初めて形勢逆転。しかし、その瞬間が実はクーチャーのためのものではなく、スピースのためのものになるであろうことを想像できた人は世界中にどれほどいたであろうか。

 13番のボギーを契機に劣勢を優勢へと反転させていったスピース。なぜ、そんなことができたのかと言えば、それこそが、昨日もこのコラムで書いたように、スピースの“ゴルフIQ"の高さであり、彼の強さだからだ。

 そして、もう1つ、「なぜ」の答えを加えるならば、スピースはマイケル・グレラーという素晴らしいキャディを携えている。それが彼にとって大きな武器になっていることを、あらためて強く実感したからこそ、優勝を遂げたスピースは心の底からグレラーに感謝していた。

 岐路になった13番。スピースのティショットは大きく右に曲がり、深いラフが生い茂る丘の頂上へ。スピースとグレラーは考えに考えた挙句、アンプレアブルを宣言。問題はティグラウンドに戻るか、ドロップするか。ドロップするとすれば、どこにドロップするかだったが、彼らはボールが沈んだ場所とピンを結んだ後方線上をぐんぐん下がり、驚くなかれ、練習場をその場に選んだ。

「そのほうがグリーンを狙いやすかった。ティグラウンドに戻るより、1打はセーブできると思った」

 練習場から打った第3打はグリーンにはわずかに届かなかったが、4打目で寄せ、3メートルのボギーパットをきっちり沈めてダブルボギーを避けたこと、ダメージを最小限に抑えたこと。それが大きな自信になったのだとスピースは振り返った。

「メジャーの最終日にあんなふうに出だしで崩れ、なんとかして軌道修正しなければと思っていた。あの13番のボギーパットがそのためのきっかけになった」

 続く14番(パー3)は、あわやホールインワンかと思わせるスーパーショットを打ち放ち、これを沈めてバーディー。15番(パー5)で15メートルのイーグルパットを沈め、16番、そして17番でもバーディーパットを沈めたスピースの姿には、3日目の18番同様、強運を引き寄せる魔力さえ漂い、そんなスピースの神懸った勢いを、もはやクーチャーは止めることができなかった。

 メジャー大会の最終日の優勝争いの真っ只中。ティショットを大きく曲げるミスを犯し、大観衆の視線を一身に浴び、テレビカメラと収音マイクに終始追いかけられ、緊張と喧騒の中、米ツアー選手の大先輩に当たる39歳のクーチャーをフェアウエイ上で20分以上も待たせたまま、ルールを確かめ、ルールを逆利用し、ドロップ場所を散々模索し、挙句に練習場をドロップ場所に選ぶ驚きの判断を下したスピース。

 その心臓の強さ、その肝の座り方は、まさに見上げたものだった。

 結果はボギーとなり、単独首位の座をクーチャーに明け渡したが、そのピンチをチャンスに変えていった機転と発想の転換。それは、まさにスピースのゴルフIQの高さの表れだった。

 スコアカードの上では、3バーディ、1イーグルを奪った14番から17番の快進撃でスピースはクーチャーを抜き返し、クラレットジャグを手に入れたことになる。

 だが、スピースが勝つことができたのは、あの13番でダブルボギーを避け、ボギーで収めることができたからだ。

 そう、スピースは13番のボギーで全英オープンを制覇した。彼の勝ち方を、私はそう表現したい。

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(写真:Getty Images)

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