海外男子

好調は瞬く間にやってくる（舩越園子の現地レポート/2016全米プロゴルフ選手権）

2016年7月16日（土）午前5:46

全米プロ初日に単独首位に立ったのは、2014年までは優勝もスポットライトを浴びた経験もなかった地味な米国人、ジミー・ウォーカーだった。

「今日は安定したゴルフで好発進を切ることができた。ショットもパットも良くて、フェアウエイとグリーンをたくさん捉えることができた。先週（カナディアンオープン）の週末から今日にかけて、何かいい流れのようなものが僕に来ている感じがする。」

その“いい感じ"は2014年の再来ということですかと米メディアから問われると、ウォーカーは「もちろんだよ」と笑顔で頷いた。

振り返れば、ウォーカーは2014年シーズン開幕戦のフライズコムオープンで初優勝を飾ると、ソニーオープンでもペブルビーチ・プロアマでも勝利を飾り、瞬く間に通算3勝の強者へ。当時のフェデックスカップランキング1位へ上昇し、注目の人となった。

日本的に言えば、“地味なジミー"が地味ではなくなったというわけだ。そんなふうに、あれよあれよという間に流れが大きく変わる現象をひとたび経験した選手は、びっくりするような流れの変化が再び起こることを心の底から信じることができるようになるからこそ、その後は強くなっていく。

2001年にプロ転向して以来、ずっと未勝利だった地味な男が14年目にして突然変異して年間3勝の強者になり、翌年はさらに2勝を挙げて、通算5勝のトッププレーヤーへ。そのウォーカーが16年目にメジャーチャンプになっても何の不思議もない。

しかし、その一方で、「メジャーに勝っても不思議はない。それなのに勝てない」と言われて久しい選手もいる。その中から突然抜け出したのが2週間前の全英オープンでついにメジャー初優勝を果たしたスウエーデンのヘンリック・ステンソンだ。

メジャーでトップ10に入ること11回。ステンソンがいつメジャーで勝ってもおかしくなかったのは確かだが、その勝利が今年達成されたことは誰にとっても驚きだった。というのも、ステンソンは昨年暮れに膝の手術を受け、今年の序盤戦すべてを欠場。3月からは復帰したものの、米ツアーで2連続予選落ちを喫し、その直後の全米オープンでは膝に違和感と痛みを感じて棄権。ボロボロの成績が続く中で全英オープンに臨み、そこでいきなり悲願のメジャー初優勝が達成された。ゴルフは本当に何が起こるかわからないし、状況は良くも悪くも突然変わるもののようである。

そのステンソンも全米プロ初日を首位のウォーカーに2打差の5位で好発進。メジャー大会2連勝を狙って残り3日間を戦っていく。しかし、メジャーチャンプの栄誉を得れば、それとは引き換えに苦労も増える。ファンや関係者、メディアに対応する時間も増え、それはそのぶん練習時間が減ることにもつながっていく。全英オープン覇者にふさわしい活躍が毎回期待される中で、自分の心身も時間もゴルフそのものも、すべてを上手くマネジメントしていく力が求められる。

「今日のスタート前、パット練習でいい感じが掴めないうちに練習場に行ってウォーミングアップをすべき時間になってしまった」
パットに不安を抱えながらティオフを迎えたステンソンだが、「15番のバーディーで何かを掴んだ」。いつしかスタート前の不安は消え去り、終わってみれば3アンダー、5位の好位置。「どんどん膨らんでいる」という自信がステンソンにいろいろな力をもたらしつつある。

長年の低迷から浮上したウォーカー、膝の故障や度重なるメジャー惜敗に終止符を打ったステンソン。彼らの流れや環境が瞬く間に様変わりした現実を思えば、昨今の成績がやや低迷していたものの、初日1アンダーで発進した松山英樹が残り3日間で突如、大きく飛躍しても何ら不思議ではない。

そんな楽しい想像が膨らんだ初日。アンダーパーで回った選手は35人に上り、スコアは思った以上に伸びた。悪天候の予報が出ている明日以降、いい方向へ様変わりして上位に飛び出すのは、果たして誰だろう。

文・写真／舩越園子（在米ゴルフジャーナリスト）

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