海外男子

ピュアな戦いがトゥルーンで始まる（舩越園子の現地レポート/2016全英オープン）

2016年5月10日（火）午後4:30

ロイヤルトゥルーンの水曜日は慌ただしかった。18番グリーンの奥ではルール委員の一団がしきりに何かをチェックしていた。「万が一」をあれこれ想定しながらルール上の対応を話し合っているとのこと。その想定が実に細かい。たとえばグリーンの左奥にはクラブハウス方向へ続く石垣があるのだが、ボールがグリーンをオーバーして石垣の「この位置」に「こんな状態」で止まったらルール上はどんな処置になるか。「こっち」の位置で「こういう状態」だったらどうなる？そんなケーススタディを繰り返していた。

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今大会で諸々の対応をするルール委員は総勢60名超。米ツアーからは大ベテランのルール委員4名が参加している。今年はUSGA主催の全米オープンと全米女子オープンの双方で優勝争いに直接関係するルール上の“珍事"が起こったこともあり、トゥルーンのルール委員たちは気を引き締め、明日からの開幕に備えていた。

その18番グリーンの奥でPGAカナダのオフィシャルに出会った。そういえば、ゴルフが五輪で最後にプレーされた112年前、金メダルを獲得したのはカナダ人のジョージ・ライオン。「だから今年、カナダ人は金メダル獲得に燃えている。世界では18人が出場を辞退したけど、カナダ人は辞退の“じ"の字も考えたことすらない」。

カナダの五輪代表はグラハム・デラエとデビッド・ハーンの2人。「でも、この全英は2人とも出場資格が得られず、グラハムは今、チッピング・イップスで調子は最悪なんだ」。それでも金メダルにまっしぐら。今、カナダのゴルフ界全体にそんな気運が高まっているのだそうだ。

しかし、このトゥルーンで選手たちが目指しているのは、金メダルではなく優勝トロフィだ。昨年覇者のザック・ジョンソンは「この1年、自宅で一緒に暮らしてきたクラレットジャグを返還するのは寂しくてたまらない」と言っていた。

昨年、ジョンソンは3人によるプレーオフを制して勝利を飾ったが、1打差でプレーオフ進出を逃したジョーダン・スピースはセント・アンドリュースからの帰路、ジョンソンと一緒にプライベートジェットに乗り込み、クラレットジャグをうれしそうに抱き抱えるジョンソンを間近に眺めたそうだ。

「あのジャグに僕の名前を刻みたい」

先週の土曜日からトゥルーンで練習を開始したスピースは、月曜日にリオ五輪出場を辞退したばかりだ。その決断は「大学進学やプロ転向の決断より難しいものだった」。

リオ五輪に出場しないとなれば、スピースは同週開催の米ツアーのジョンディア・クラシックにディフェンディング・チャンピオンとして出場することが物理的に可能になる。だが「それはしない。するべきではない」とスピースは言い切る。五輪を欠場するなら同週の米ツアーも欠場。それはスピースなりの“けじめ"なのだろう。

昨年のマスターズと全米オープンを制したスピースがこの全英で優勝すれば、キャリアグランドスラム達成に大きくにじり寄る。しかし、そんなスピースの行く手を阻む筆頭は、全米オープンとブリヂストン招待を続けざまに制し、スピースと入れ代って世界ナンバー2へ浮上したダスティン・ジョンソンだ。